8月30日の昼、利賀の L’évo へ。
この日はペアリングをノンアルコールで。ハーブもお茶もこの店で仕込んだもので、12皿に一杯ずつ付いてくる。
コース
Prologue
小さな皿が一斉に並ぶ。
白いのはもち米のえびせん。軽くて塩気は控えめ。ピンクは赤ビーツのメレンゲで、間に鶏のレバームース。メレンゲの甘さとレバーの濃さが一口の中で入れ替わる。グジェールには富山の焼きのチーズと地酒の酒粕が練り込んである。噛むと酒粕の香りが後から来る。緑は甘菜とジャガイモをグラタン状にしてからクロケットにしたもの。
鮎は生きた状態のままどぶろくにつける。どぶろくはこの村のお父さんが作っているもの。鮎はもうそろそろ終わりの時期で、そのぶん苦みがしっかり出ている。
鱧のジュレ、雲丹とジュンサイ
鱧が、鱧のかたちで出てこない。身はすべてジュレになっている。
大葉のオイルの緑の下に、モロヘイヤのペースト、ジャガイモのピューレ、雲丹、ジュンサイ。下から潰しながら食べると、鱧の出汁の旨味に雲丹の甘さが乗り、ジュンサイのつるりとした食感が間に入る。大葉の香りが全体をまとめている。
太刀魚の炭火焼き
炭火で焼いた太刀魚を、ズッキーニときゅうりと重ねて、下にソースを敷く。上にディルとつるむらさきの花。
手で持って一口。皮目の香ばしさときゅうりの水気が同時に来る。太刀魚は脂があるけれど軽いので、夏野菜と重ねてちょうどいい。
月ノ輪熊、赤ミツバとコールラビ
月ノ輪熊。
肉に合わせてあるのは赤ミツバ。山で採ってきた野草で、シャキシャキと歯が入る。白い丸はコールラビ。添えのジュレは熊の酵素とはちみつで、赤身の鉄っぽさにはちみつの甘さが乗る。軽く混ぜて食べる。
アオリイカ、イカ墨と熊の脂のソース
アオリイカに、イカ墨と熊の脂を合わせた黒いソース。
イカはほとんどレアで、薪の香りだけが移してある。イカ墨の塩気と旨味に熊の脂のコクが重なって、見た目どおり味も濃い。アオリイカ自体は甘いので、その甘さが後に残る。上に赤玉のり。
スッポンのつくね
小矢部川のスッポン。ミンチにしてつくねにし、スッポンの血を塗って焼く。
血のぶん味が濃い。グリーントマトのマリネの酸と、焦がしたらっきょうのオイルの香ばしさが、その濃さを切ってくれる。万願寺とうがらしのソースとエゴマの葉、とうもろこしときのこと一緒に包んで、手で食べる。
大門素麺、蕗のオイル
大門素麺。富山の乾麺が、冷たいスープになって出てくる。
スープには黒部のヤギのチーズが入っていて、素麺にしては旨味が濃い。そこに蕗のオイルが緑の筋を引く。
L'évo鶏
L’évo鶏。この店の看板で、これを目当てに来る人も多いと思う。
脚のかたちのまま焼いて出てくる。皮は香ばしく焼き締まっていて、身にはまだ水分が残っている。中に詰まっているのは、熊の脂とナッツを山菜のコシアブラで巻き、もち米で巻き上げたもの。もち米が脂を吸っていて、噛むとコシアブラの苦みが後から立つ。熊の脂の甘さと山菜の苦みが、鶏の中で一つになっている。真ん中のソースをつけて食べる。
甘鯛の松笠焼き
甘鯛の松笠焼き。鱗が立ってパリパリに焼き上がっている。
身はふわりとしていて、鱗の食感との差が大きい。左手に富山の野菜。ヤングコーンやししとう。下の白いソースは新ニンニクと塩で、新ニンニクなので辛みより甘みが立つ。絡めて食べる。
ウリ坊の薪焼き、茄子
この日いちばんよかったのがこれ。
うり坊を薪でじっくり火を通す。若い猪なので脂が軽く、臭みがない。添えの茄子も長時間かけているが、こちらは薪ではなく炭火。同じ皿の中で火を使い分けている。茄子の皮はパウダー状にして周りに散らす。ソースは発酵ミルクに米を合わせたものに、肉のジュを重ねたもので、乳の酸味が脂を受ける。
ゆうかメロンのスープ
ゆうかメロンのスープ。左手にキウイフルーツ、右手に畑のハーブ。
中にルバーブのコンフィチュールとメロンの凍結、一番下にヨーグルトのグラッセ。メロンの甘さにルバーブとヨーグルトの酸が入るので、最後まで重くならない。
黒文字のパイ
黒文字。この店の定番。
すべてのパーツに黒文字の香りを移し込んだパイで、間にクリーム、上にパウダー状のアイスクリーム。清涼感のある香りが、甘さの後ろにずっと残る。少し冷たいうちに食べる。
小菓子
紅茶のタルト、エゴマのフィナンシェ、桑茶のシューアイス、リンゴのタルト、フランボワーズのゼリー、生姜のテリーヌ。
まとめ
この店の面白さは、山のものの幅だと思う。熊にうり坊、鮎。赤ミツバやコシアブラのような山菜、よもぎ、蕗、黒文字。村で作られたどぶろく。獲れるものと採れるものが、そのまま12皿になっている。
しかも肉は肉、山菜は山菜で終わらない。熊は肉として出るだけでなく、脂がイカのソースになり、鶏の詰め物にもなる。一頭を余さず使いながら、皿ごとに役割が変わっていく。山菜も、コシアブラは鶏の中で苦みの役、よもぎは飲みものの役と、置き場所を変えて何度も出てくる。
ノンアルコールのペアリングも、その延長にある。ハーブは畑から、お茶は富山のバタバタ茶、香りづけには黒文字やよもぎ。同じよもぎでも強さを変えて出してくる。山の草をそのまま飲みものにしているので、料理と地続きになっている。
この日いちばんよかったのはうり坊だった。薪と炭を1皿の中で使い分けて、若い猪の軽い脂を発酵ミルクのソースで受ける。山のものをどう焼くかまで考え抜かれている1皿で、この店の面白さがそこに全部あった。
夏の終わりは、鮎と鱧の終わりぎわに間に合って、メロンにも間に合う時期。熊とうり坊が同じ日に並ぶのもこの季節ならでは。次は秋に来たい。きのこの時期の山がどうなるか見てみたい。